この事態を誰が予測できたでしょうか?今年2015年原油価格は想像を絶するほど大きく値崩れを起こし、大幅な原油安となっています。この記事『原油安はなぜ起きたのか?その複雑な原因と理由とは!?』では、その原油安の起きた原因・理由を取り上げるとともに、今後の原油価格の推移について考えてみます。
用語の解説には、『コトバンク』を引用しています。また随所に、その当時のニュースをキュレーション的にリンクしていますので、合わせてご覧ください。
原油安をめぐる世界の勢力図
原油ときたら、石油輸出国機構(OPEC)を連想する人も多いと思います。たしかにそのイメージは間違いではなく、正しいものです。原油の生産量・埋蔵量ともに、やはりOPECの影響力は大きいものです。しかし、OPECのほかに、産油国ロシアやメキシコをはじめとした非OPECの存在も忘れてはいけません。特に、ロシアは、OPECに次ぐ産油国であり、OPECとロシアを含めて、原油産油の6~7割を占めています(引用元:ゴールドマン・サックス)。
オペック【OPEC】[Organization of the Petroleum Exporting Countries]
《Organization of the Petroleum Exporting Countries》石油輸出国機構。国際石油資本に対抗してみずからの利益を守るため、1960年にイラン・イラク・サウジアラビア・クウェート・ベネズエラの産油5か国が、石油の価格維持・生産調整などを目的として結成した国際機構。
[補説]加盟国はアラブ首長国連邦・アルジェリア・アンゴラ・イラク・イラン・エクアドル・カタール・クウェート・サウジアラビア・ナイジェリア・ベネズエラ・リビアの12か国(2015年7月現在)。
(引用元:コトバンク)
なぜ原油安は起きたのでしょうか。
前述『原油安をめぐる世界の勢力図』のように、原油に関しては、OPECが大きな力をもっていますし、その事実はもちろん今でも変わることはありません。しかし、近年そのOPECを脅かす事態が起こってしまいます。聞いたことのある人もいるかもしれませんが、それがアメリカ主導のシェールオイル開発です。もはや原油はOPECだけのものではなく、アメリカも名乗りを上げているのです。つまり、そもそもの原油安の発端は、米シェールオイル開発による原油掘削・輸出の大幅な増加といえます。実は、すでに2014年から、原油価格の見通しには危惧があったのです。
シェールオイル
地下にある「頁岩(けつがん)(シェール)」と呼ばれる泥岩の層に含まれている石油。これまでは採掘するのが難しかったが、強い水圧をかけて岩盤層に亀裂を入れて取り出す方法が開発され、生産しやすくなった。原油価格の高騰で採掘コストも見合うようになり、米国やカナダで盛んに生産されるようになっている。岩盤層に含まれる「シェールガス」とともに、採掘可能な量が急増することから「シェールガス革命」と呼ばれる。
(2012-07-06 朝日新聞 夕刊 1総合)
(引用元:コトバンク)
これにより、OPECとロシア、アメリカなどの掘削・輸出の増加により、原油は過剰供給になってしまいます。ここで、OPECは原油価格の維持ができない事態への対処を迫られます。しかし、OPECは減産することをしないため、原油の需給関係(過剰供給により)が崩れてしまい、大きな値崩れを起こすことになるのです。では、なぜOPECは原油の減産を行い、需給関係を安定させて原油価格の維持を図ならなかったのでしょうか?それは、原油価格が下落したときに、米シェールオイルが真っ先に採算が合わなくなり倒産するという期待があったからです。米シェールオイルが倒産さえしてしまえば、その後の需給関係は自ずと回復し、これまで通りの採算が見込めるという計算です。いわば、体力勝負といったかんじです。これが原油安の発端となった大きな出来事である『逆オイルショック』ですが、その後原油価格が大きく下落する初動であったと誰が予測できたでしょうか。
この世界を震撼させた出来事は、多くのメディアで取り上げられました。
原油安 シェール開発の行方は | 2015年2月25日 NHKニュース おはよう日本
OPEC総会、生産目標を維持 供給過剰の長期化も | 2015年6月5日 日本経済新聞
加速する原油安。その複雑な原因と理由とは?
実は、上記の『なぜ原油安は起きたのでしょうか。』以降は、一度落ち着きを取り戻し、原油価格が戻り始めたのです。それは、原油価格の下落により、採算の合わなくなってきた米シェールオイルがリグの数を減らし、掘削・輸出が頭打ちになったことによるものです。
このとき、誰もが『逆オイルショック』の終焉だと思っていました。各銀行のNISA開設広告では、投資先として、今がチャンスと言わんばかりに『WTI原油価格連動型上場投信【1671】』への投資を推していましたし、投資アナリストの多くも2015年末にかけて、徐々に回復していくだろうと予測していたくらいです。
しかし、ここで、OPECにとって、いや、世界にとって全く不測な事態が起きます。多くの人が知っている、ギリシャのEU脱退問題の危惧・中国経済の大幅な失速という二つの出来事が世界を震撼させました。これにより、さらに原油価格は大幅に下落します。しかし、米シェールオイルは、原油価格が下落しても採算がとてるような技術を開発しており、ますます増産を行ってきたのです。原油価格は、もはや戻るどころか、やはり下落していく一方です。
さらに追い打ちをかけたのが、アメリカが主導する経済制裁緩和による、OPEC加盟国の一国であるイランの原油市場復帰と、米の利上げへの懸念です。これらにより、さらに原油の過剰供給に歯止めがつかなくなり、上記の『なぜ原油安は起きたのでしょうか。』以上の大幅下落を記録しています。
米、原油安でもシェール開発続く リグ稼働数が5週連続増 | 2015年8月22日 日本経済新聞
今後の原油価格の推移はどうなるのでしょうか。
一連の原油価格下落により、もはやサウジアラビアでも財政悪化の事態に追い込まれていて、この状況が続けば、国の存続に関わるほどにまで事態は重くなっています。そのため、これ以上の原油価格の下落はないと思いたいところではありますし、将来的に事態はやがて収束するとは思いますが、この状況はしばらく続くことになるでしょう。
サウジ、8年ぶり国債発行 原油安が財政圧迫 クウェートなど補助金削減も | 2015年8月14日 日本経済新聞
なお、米投資銀行大手のゴールドマン・サックスは、短期的視点では、原油価格見通しの下方修正を行っています。しかし、2020年までには、原油価格が回復するという長期的な視点もまた有力のようですね。
NY原油11日:ゴールドマンの弱気見通しが嫌気され、反落 | 2015年9月14日 YAHOO!JAPAN ニュース
OPEC:原油価格は徐々に回復、2020年に80ドルと予想 | 2015年9月18日 YAHOO!JAPAN ニュース